2011年12月21日

伊勢講

【掲示板に投稿した記事を転載します。】

伊勢講 投稿者:鈴木小太郎 投稿日:2011年12月21日(水)19時06分33秒

次に全国的に分布している代参講の例として、同じく『国史大辞典』から「伊勢講」を引いておきます。
桜井徳太郎氏の文章は独特で、かなり古風な感じがしますが、最近の歴史学者の文章とは異なる魅力がありますね。

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いせこう 伊勢講

 伊勢信仰にもとづいて結成された信者の集団。大別して伊勢神宮への参拝を目的とするものとそうでないものとに分けられる。しかしながら大部分は参宮講で、また神明講とも称された。
 参宮を希望するものが組織をつくり、旅費などを頼母子方式で醵出貯金したり、講員の協同労働から得た収入や共有の田畑(伊勢講田・伊勢講畑)や山林(伊勢講山)の収益を経費にあてたりする。
 伊勢に近い地方では、講員全員が参宮する惣参方式がとられるが、遠隔地のため個人の資力で費用の負担ができない場合には、籤引きで二、三人の代表者をえらぶ代参形式をとった。
 代参は多く春先の農事始めの前か秋の収穫作業完了後の農閑期に施行され、二年参りといって歳末年頭にわたることもある。
 代表者の出発に際しては、講中が伊勢講宿に集まってデタチの祝いをする。まず天照皇大神の掛軸を床の間に掲げて礼拝してから宴を張り、餞別をおくる。全行程を徒歩にたよったころは、水盃をかわして訣別した。
 潔斎を重んずる所では、家の周囲に注連縄を張り連日水垢離をとり、特別に建てた小屋で精進してから出発した。そのとき講中や縁者・知友が村境まで見送る慣行も見られた。留守宅では参宮道中の無為を祈念して鎮守社に日参したり、疲労を癒すため門口につくった藁人形に湯水を掛けてねぎらったりした。また講員親類から留守見舞が届けられた。
 参宮道者が伊勢に着くと、講ごとに指定される御師の宿坊に泊り、御師の引道で内外宮を参拝し、また太々神楽を奉納した。一生に一度は必ず伊勢参りをしたいと念願する庶民は少なくなかった。伊勢から帰着のときにも村中が村境まで出迎えに出た。それをサカムカエと称し、出会った所で持参の酒食を開き、無事を祝福した。また華やかに飾った馬に参宮者をのせ、伊勢音頭を高らかに歌って村入りする所もあった。その晩はデタチと同様に講中が集まって賑やかな祝宴を催した。それも東日本でハバキヌギ、西日本ではドウブレという。旅装を解いて道中のほこりをことごとく洗い流すという意味である。その席上、勧請した祓札や伊勢土産を各人に配布する。
 参宮を直接の目的としない伊勢講も開かれる。多くは毎月日を決めて講宿に参集し大神宮の祓札や掛軸の前で神事を行い、そのあとで直会の酒食を摂る。このとき伊勢から配布された神札を講員に配給する。この神札はおのおのの神棚に収めて朝夕礼拝する。家内・講中・部落の平穏無為と息災延命、五穀豊穣、福徳円満を祈請するためであり、これによって豊産が招来され、すべての禍厄が除去されるものと信じていた。
 民間における伊勢講は、元来こうした部落共同体に根をおく素朴な信仰形態を基盤にしながら成立し、やがて前者のような参宮形式をとる組織へと発展したものと思われる。そしてその媒介役を果たしたのが伊勢御師であった。
 伊勢神宮は、もともと民間の私幣をかたく拒んでいた。そのため律令体制下の古代では、民衆の参宮は不可能であり、ほとんど無関係な存在であった。それを民間に紹介し国民の各層に滲透させ日本列島の各地に普及させたのが伊勢御師であり、その時期は中世以降であった。
 古代国家によって生活が保証された神宮の祠官たちは、その崩壊によって自活の道をえらばねばならなくなった。そこで多くは、伊勢神宮の霊験を説き、その信仰を伝道するための御師となって諸国を巡回し、神符・神札・暦などを配布し、その代償として米銭などの初穂料を徴収した。これらが神宮経営の経済を支え、祠官の活計を維持することとなった。
 また一方、御師の地方檀回によってはじめて神宮の存在を知った民衆は、その指導のもとに伊勢神宮崇拝の信仰集団を組織するとともに、御師との間に緊密な師檀関係を結ぶに至った。
 この傾向は戦国時代から江戸時代にかけてますます強まり、地方住民の遠隔地参詣の要求とも合致して、伊勢参宮の風を助長した。特に六十年ごとに訪れる御蔭年を期しての御蔭参や、青年子女・小前・奉公人などの抜参が流行し、江戸時代中期には参宮道者の往来で道路が狭くなるほどの盛況を呈したといわれる。

[参考文献]桜井徳太郎『講集団成立過程の研究』、同『日本民間信仰論増訂版』、新城常三『社寺参詣の社会経済史的研究』、井上頼寿『伊勢講と民俗』
(桜井徳太郎)
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posted by 神宮威一郎 at 19:06| Comment(0) | 過去ログ(代参、非公開)
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